「小暮写真館」
2023-03-18


講談社100周年記念書き下ろし、とたいそうな名札がつき(自分が呼んだのは2013年の文庫版)、ボリュームはあるのですが、宮部みゆきにしては結構ライトな印象。社会の闇を鋭く突くとか、巨悪に立ち向かうとか、身の毛もよだつ怪異とか、ではありません。主人公の高校生男子の半一人称的な語りも、軽妙で。
幽霊が出る写真館に、心霊写真、というのも、ほんの小道具というか、背景にすぎない。
全四話形式の作中で描かれるのは、古い写真館に移り住んだ主人公の生活と、ごく普通の人々の、普通の生活の中で生じる、個人的な苦しみ。
戦争のこととか、夫の実家になじめないとか、恋人に対して顔向けできなくなったとか、幼い子供を病死させてしまった一家とか。
抱えた苦しみを打ち明けることで、厄落とし、みたいな感じになるのは、筆者の三島屋百物語シリーズに通じる気がします。主人公のエイイチ君は怪異の謎を追う形で、聞き役を務めるのですが、終盤に言いたいことをぶちまけます。
人には、言えないことがある。にもかかわらず、語りたい。誰かに聞いてもらいたい。あるいは、何らかの形で意思表示したい、気づいてもらいたい。
それが、次への後押しになる。
[読書]
[作家別マ行]

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