「白銀の墟 玄の月」
2019-11-24


ひとつ、世界観について。ここって仏教あるの!?道教っぽい十二国世界に、普通に仏像って単語出てくるんだけど、誰がどうやって御仏の教えを伝えたのだろう……

長かった。「オレタチノタタカイハコレカラダ」から18年の年月も長いけど、全四巻読み終えるまでも長くかかった。小野不由美の最新作、これは、群像劇か。
登場人物が多くて(そしてたくさん死んでいく)、「この人誰だったけ?」と何度も振り返る。読み終わっても結局背景がよく分からないままの人たちも。(投げっぱなしになった人たちのその後とか、いつの日か判明するのだろうか……)
このシリーズのこれまでの作品と大きく違って、なかなか主人公目線が出てきません。
物語のキーパーソンである麒麟、王様、簒奪者の目線で語られるのは、半分過ぎた第三巻から。
泰麒シーンで熱かったのが、故郷での犠牲者たちを思い起こして気合を入れるところ。……新刊発売を機にぼつぼつシリーズを読み返していましたが、エピソード0の「魔性の子」は本当に救いようがなく悲惨で。大事な王様を思い出した途端に数々の惨劇を遠い夢の話みたいにされてしまうのもあんまりですし、広瀬先生良かったね。
王様は、みんなが頑張って捜索しているのなんて関係なしにちゃんと自力で(天運は実力のうち)七年かけて自由の身になるのだから、屈強すぎる。確かな実力と自信があるために薄々怪しいと思っていたのを誰にも相談せず一人胸の内に収めて動いてしくじってこの有様かと思うと、並外れているのも考えものだけど。
逆に簒奪者の方は、自分がダメなのを分かっているから、周りから人を遠ざけてしまった。彼を慕う人たちの回想と、現在の簒奪者の姿とのギャップが、悲しい。ライバルと、それを選んだ麒麟(=天)に対する憎しみだけで彼は動いた。完全に自業自得ですが、孤独で憂鬱で気の晴れることのないまま。「今の王様と同姓だから次の王様にはなれないよ」「何て理不尽なんだこのシビュラシステム」ってなるのかもしれないけど。
似ている、とされた両者。それを大きく分けたのは。
己の感情のみを考えるか。
それだけでなく、もっと広く周りを見ることができるか。
[読書]
[小野不由美]

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