「空飛ぶタイヤ」
2011-08-30


タイトルは軽いが中身は濃い。
 直木賞受賞作があんまり面白く感じられなかったわけですが、それというのも、続けて読んだ同じ作者によるトラックリコール隠しの話のほうが断然面白かったものだから、比較するとどうしても「下町ロケット」は物足りなく感じちゃう。
 文庫本で上下巻、この作者はけっこう登場人物を多く配置するっていうかちょっと群像劇っぽく書くので、このくらいボリュームがあるほうがいいです。
 トラックのタイヤが外れて、通行人を死なせてしまった。トラックの持ち主である運送会社の整備不良が疑われたが、実は製造会社がトラックの構造的欠陥を隠していたのだった!
 という、どこかで実際に聞いたことのある事件を髣髴とさせるストーリー。NHKでドラマにもなっていましたね。見てないけど。
 大企業の尊大さと中小企業を経営するつらさを対比し、法廷闘争や銀行相手の資金繰りやらが盛り込まれる。その辺の構図は直木賞受賞作と同じなんですが、それぞれの立場にある人物たちが、「タイヤ」のほうがしっかり描かれているんですよね。
 それにプラスして、リコール隠しを証明するための探偵的要素や、事故被害者遺族の悲哀なんかも入ってきて、盛りだくさんなのにスッと読めます。
 都合の良い展開なんじゃないかと思う点もないことはないですが、許容範囲内。
 会社組織とは何か。
 そこで働き、経営するとはどういうことか。
 そんな、人間社会にありふれている営みに、改めて光を当てて浮かび上がらせる。
[読書]
[作家別ア行]

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