2010-06-04
井上靖はやっぱりイイです。(しみじみ)
明日はヒノキになろう、そう願いながらも檜にはなれない翌檜。
作者の分身である主人公をはじめとする人々を、そんな翌檜に喩えて、しかしそこにあるのは自嘲や自己憐憫ではなく、多少の哀切を帯びながら、温かい眼差しを向けられています。
だから、歴史小説でも武田信玄ではなく彼に仕える軍師(しかも大一番で作戦失敗する)を描き、鑑真ではなくその周辺のほとんど無名の留学僧を取り上げます。
ところどころに詩人らしい叙情性はあっても、基本的な文体は簡潔で抑制されていて、それなのにどうしてあんなにも温かみのあるモノが書けるのでしょう。
どんなに愚かしく、無力でままならぬ人生であっても、井上靖は決して否定しませんね。たとえヒノキになれずとも、あすなろな人々を信じているし愛しています。だから、歴史小説でも武田信玄ではなく彼に仕える軍師(しかも大一番で作戦失敗する)を描き、鑑真よりもその周辺にいる無名の留学僧を取り上げます。
励まされます。
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